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第四話 一人暮らしを始める
涼子の説得もあってたまには自分の家に帰るようにしてたけど(着替えも持ってこないといけないしね)基本的に私は遅番手伝いをしては少し小遣い稼いでから涼子の部屋で一緒に寝た。
麻雀に負けて給料溶かして働いた意味が無いような日は悔しくて涼子相手に2人麻雀してたっけ。
「私を八つ当たりの道具に使ってないか?」と涼子に言われたことがあるが、その通りであった。
そんな生活ではあったけど、学校はなんとか卒業。卒業後は涼子は調理師専門学校に、私は晴れて堂々と雀荘メンバーとなる。
まあ、深夜帯の遅番メンバーに『堂々と』とかいうのは無いんだけどね。私の働いてる時間は法律上『閉店時間』だ。ナイショだよ。
遅番というのは営業時間外も担当している裏仕事なのである(だからと言って深夜手当てなどがあるわけではないのだが)。
その後……。
「じゃ、行くわ。今までありがとう」
「何かあったら連絡するようにね」
「ん、分かった」
一応、親とはちゃんと話してから私は家を出ていった。ド田舎だからね、便利な所を選ばなければ私にも家賃が払える物件はある。どこに行くにも遠いけど、自転車さえあれば行けないことはない。私には自転車も原付きもあるから何とでもなるわ。
親を頼るつもりはなかったけど、実家からさほど遠くない所に引っ越した。まるっきり知らない土地より知ってる所で暮らした方が何かと便利かと思ったし、ちょうどいい物件がたまたま近場にあったから。
2階建てアパートの2階の奥の部屋。風呂トイレ別。出窓付きのロフトあり。大通り沿いにつき騒音はあるが田舎の大通りなんてたいした騒音にはならない。通りを挟んだ向かいには蕎麦屋さんがある、蕎麦好きの私には丁度いい。その横の自動販売機には私の好きなトマトジュースがあり、それも嬉しかった。
(しかしいい部屋ねー、気に入ったわ〜)
緑豊かな山に近いのでちょっと虫は出るかもしれないけど、まあそれくらいは御愛嬌。虫はそんなに苦手じゃないしね。
虫なんてねぇ、しょせん虫でしょう? 恐怖する対象にはなり得ないというか。だって虫けらなんか人間の敵じゃないし。ただ、ムカデとかハチは勘弁して欲しいけど。痛いのだけはちょっとね。
ピンポーン
(誰だろ?)
「はーい」
「遊びに来たよー」
「りょうちゃん! 学校は?」
「何いってんの、今日は日曜日よ?」
私は毎日遅番で麻雀してるだけだから曜日感覚が無くなってきていた。そうか、今日は日曜日か。
「よく来たね。さ、あがってあがって。まだ片付いてないけど、一緒にやればすぐに終わるよ」
「私に片付けさせるんかい!」
「洗い物とか洗濯でもいいよ?」
「まずは休ませてよ」
涼子はお腹がすいたと言うが引っ越してきたばかりの部屋には何も無いのでさっそく向かいの蕎麦屋さんに行った。
51.第六話 マタイの戦略 白ポッチ(永遠制)のルールが面白いとマタイさんが言うので、その時はマタイさんしかお客さんがいなかったのもあり、今夜は白ポッチ永遠制の三人麻雀であと一人来るまでの暇つぶしをすることにした。「ルールはどうします?」「おれ、三人麻雀って全然知らなくて。三人麻雀の正式ルールを1から覚えるのは面倒だから普通の麻雀を三人でやる方式をとって欲しいな」「わかりました。それはありがたい申し出です。りょうちゃんも私も実を言うと三人麻雀には明るくないからその方がいいもんね」「そうね」 マンズの2〜8を抜くやら、最後まで取るやら、35000点スタートやらのルールは不採用とし、私たちは三人で四人麻雀をやった。「ツモった時の点数はどうしよっか」「『損する』でいいんじゃない?」「分かりやすいからそれがいいか。じゃ、それで」──── 私たちはいい勝負をした。実力で劣る涼子もこの日は勝負手がどんどん入る展開で強かった。 私とマタイさんは涼子の先制攻撃を受けつつの反撃をするパターンがほとんどだったが、私は反撃するのは得意な方だ。むしろ反撃する時こそ麻雀っていうか、戦ってるっていう実感が楽しいっていうか。そういうのわかる人もいるよね? マタイさんは先制攻撃されるのは嫌らしく、本当に嫌そうにしてたけどそれでも要所要所でキチンと反撃を決めてた。 そしてたまに出る白ポッチツモ。これが楽しい。 もはやリーチをする大きな理由の一つとして(白ポッチがまだあるな)というのも含まれるような状態であった。それくらい、白ポッチでアガれるということはテンションが上がることなのだ。少なくとも私と涼子にとってはそうだった。 その私たちの心理状態をしっか
50.第伍話 雀荘遅番の醍醐味 今日は展開的に私が立ち番になって涼子が卓に着いてた。 涼子vsマタイ 私はその戦いがよく見えるよう二人の間に位置取りして二人の麻雀を観戦することにした。 なお、本日は特別ルールの日。というのも、私たち遅番はカー子に全てを任されており、地球の麻雀がどのようなルールなのかも学びたいということで、10日に一度はスノウドロップの正式ルールではない特殊ルールの日を設けるという話に決まったのだ。 ちなみに、マージに週や月や年という概念は存在せず、ただ日数だけがあるので週に一度休むとか、そういうのは地球の知識があるカー子とキュキュにしか通用しない考えで、基本的には10や5を丁度いい区切りとして考える文化が浸透していた。 そんなわけで今日は特殊ルール『白ポッチ(永遠制)』の日。 白ポッチ永遠制とは。 『白』に1枚だけ赤い丸を彫ってある牌が投入されるルールを『白ポッチ(しろぽっち)有りルール』と言います。この牌はリーチをかけた時だけ発動する条件付きジョーカーのようなもので、基本はリーチ一発で引いた時だけのオールマイティ。はっきり言ってあまり気にしなくていい。 しかし、永遠制となると違う。白ポッチ永遠制はリーチ後ならいつ引いてきてもその牌でアガリと認めるというルール。これだとけっこうプレイヤーもその牌の存在を気にしながら打たねばならない。今回はそれでやろう、ということ。「白ポッチ牌は私が作っときました」と言って涼子が見せたのは牌の中心にマジックで描いた赤いハートがあり、それが消えないよう上にテープを貼り付けたものだった。「本当は彫ってあるものなんだけど、大変だし、それだと一度作ったら直せないからね。これをリーチ後にツモってきたらアガリと認めます。今夜はそういうルールでやりましょう」 そう言って始まったゲーム
49.第四話 鬼と悪魔の攻防 初日が問題なく終了し、カー子たち早番と入れ替わりの朝が来た。「おはヨー」「おはよう。初日はどうだった?」「あ、カー子、キュキュ、おはよ」「もうそんな時間だったの? 全然気付かなかった」「これ、音の鳴る目覚まし時計。今買ってきたんで、持って帰ってくだサイ。初日の仕事は何か報告することとかありましたカ?」「目覚まし時計ありがとう! 報告はとくに無いけど、マコトとマタイさんの攻防が面白かったとだけは伝えときます」「ドユコト?」「うん、この二人本当にすごくて……。ノートに書いたから読んで欲しいんだけど、日本語って二人は読めるのかな?」「モチロン」「余裕だよ。神と仙人だからね」「そう、じゃあこれ見て」 そう言って涼子は二人にノートを手渡した。それにはこんな事が書いてあった。◆◇◆◇ 南3局マコトは40900点持ち二着目の南家。全員の持ち点はこう。東家 マタイさん 17300南家 マコト 40900西家 カルケヤさん 41100北家 ロッジさん 700 そこで親のマタイさんが混一色トイトイの仕掛けをしている。ドラは北。 親は鬼のように強い戦略家のマタイさんだ。この点差でこの仕掛けなら捨て牌全体図から読んでも6000オールクラスでまくりに来てるとは私にも想像はつく。 つまり当たり牌最有力候補はドラの北。混一色トイトイドラドラを強引にドラツモしてやるつもりなのだろうと予想。 そして飛び寸前の北家ロッジさんは1枚でもドラを持っていれば絶対に永遠と持ち続けてテンパイ寸前ま
48.第三話 ミズサキによる福思書「すごいですね。マタイさん」「何が?」「いや、麻雀うますぎますよ。マタイさんみたいな上手な人がいるなら私たち来る必要なかったのでは?」「……どの場面を見てそう思ったのか分からないけど、買いかぶりすぎだよ。それにおれは説明が苦手だし、恥ずかしながら、文字も……その、書けないんだ」「あ……そーいうことでしたか……」 文字が書けないは想定外だった。聞くとマタイさん世代のクリポン族は基本的にものを書く文化があまりなく、そのような学習を受けずに育つのが一般的だったのだとか(現在は違う)。 それはそれでいいとは思うが、他人に麻雀を教える上で筆記はなくてはならないものと言ってもいいのでカー子たちがマタイさんを頼れなかった理由が理解できた。「とは言え、やっぱり強い人がいて良かったね。ねっ、りょうちゃん」「そうね~。なにより強い人と麻雀する時が結局一番麻雀が面白いからね」「エッ!」「何よ?」「いや、りょうちゃんから『麻雀が面白い』なんて聞ける日が来るとは思わなかったなって」「そんなこと言ってないでしょ」「いや、言ったよ。間違いなく言ったって。賭けなきゃ面白くないみたいなこといつも言ってたくせに。強い人と打つのが結局一番楽しいんじゃん♪」「聞き間違いでしょ」「照れないでいいってー♡」「ハハハ! 二人は仲が良いんだな」「これからよろしくな、お二人さん」 とまあ、そんなこんなで私たちは賑やかに遅番初日を開始した。 うるさいとか言われるかと思ったけど私たちの可愛さゆえかお客さんみんな歓迎してくれて一緒に笑いながら初日を楽しんだ。でも、笑ってばかりもいられない。私は依頼されて来
47.第二話 ノータイムのマタイマタイ手牌 東1局8巡目 親番 ドラ②二二赤伍六六七七(西西西)(北北北) ここにツモ四萬と引いた時、あなたならどんな反応をするだろうか。ツモ切りか? それでもいいだろう。むしろそれはマジョリティな選択であると思われる。そもそもこの手はホンイツトイトイを目指して鳴き始めたのだ。四萬に用はない。 しかし、このマタイというクリポン族の男はノータイムで打七萬としたのである。(なるほど、3面待ちへの変化を見た1手というわけね。よく考えたらたしかにここは七切りが良いように思える)と後ろ見していた私も思ったし、それが正解ではあるのだが、特筆すべきはその七切りの理由である。というのも――「ツモ!」二二四赤伍六六七(西西西)(北北北) 伍ツモ「2600オール」 これである。つまり、伍萬でのツモアガリを想定した※点パネ期待。ここに着目してマタイは四萬を採用したのだ。 マタイ曰く、この卓のメンツは強い。オタ風のポンを2つ見せて親のホンイツ仕掛けにこれ以上鳴かせたり放銃したりするような相手ではない。この手はもう※ツモ専となったようなものだ。だとしたら伍ツモの時に打点が上がる選択をするのが正解だと思った。自力でトイトイをつけてさらにアガるなんてのは夢物語もいいとこだが、自力伍萬ツモならリアルにあり得る。と。そういうことらしい。 なるほど納得。相手をリスペクトしているからこその選択というわけだ。 また、数局後にこのような手牌になった時もすごかった。マタイ手牌 4巡目 ドラ北三六七八①②⑤⑤⑥12789
46.ここまでのあらすじ 不思議なカラス『カー子』に連れられて異世界に訪れたミズサキと涼子。彼女たちは異世界でも麻雀屋で働くことになる。今夜からミズサキたちの異世界遅番が始まる――【登場人物紹介】水崎真琴みずさきまこと 雀荘『こじま』の遅番メンバー。麻雀が好きなのと働きたくないのがリンクして雀荘遅番という職業につくことを選んだ現代に生きる遊び人。しかしこの度異世界へ転移。異世界雀荘『麻雀スノウドロップ』の遅番メンバーとなる。小島涼子こじまりょうこ 雀荘『こじま』の店主の娘。ミズサキとは中学高校の同級生。天才のミズサキとは真逆でアタマの固い涼子はミズサキに憧れる。見た目は真面目そうだけど性格はミズサキよりふざけてる。ミズサキと共に異世界へ転移。エル(カー子)える 異世界『マージ』の神様。雀荘経営をするにあたりスタッフが足らず、相応しいスタッフを求めて地球にカラスの姿で来ていた。ミズサキはそれに最も相応しい人物なのだとか。ただ、少し時代を間違えたらしかった。キュキュきゅきゅ 異世界『マージ』の神様の補佐をする仙人。13歳くらいの少年の姿をしているが、魔力エネルギーが減ってくるとリスになってしまう。とても物知りでエルをいつも助けてくれる。ネルビイねるびい 異世界『マージ』に住むシン族の少年。巷では天才と噂される。